ひつじ書房の松本さんへの応答

ひつじ書房松本功さん(http://www.hituzi.co.jp/isao/)からコメントを頂戴しました。

# myougadani 『ひつじ書房の松本です。ご無沙汰しております。
再販制と委託制については、現在は、以前とは少しスタンスが変わりました。文化だから守らなければならないというよりも、エンドユーザーしか、その価値を決めることができないからというものです。エンドユーザーも、値段を交渉して設定することはできず、提示されている価格を買わないと言うことで拒否することと買うことで受け入れるという2つの選択肢しかありません。取次も書店も、100パーセント責任をもって仕入れることは不可能なので、価格は不可侵であるゆえに、再販制と委託制が必要とされるのはしかたがないというスタンスに変わっています。
ダイナミックで直接的で即時的な価格変動の仕組みがない以上は、値段は、出版社の側もほぼ相場的な値段を付けることになり、必ずしもきめていないのではないか。誰も値段を決めていない……。というような感じかと…。』 (2005/10/27 00:22)

松本さん。ようこそご来店を。
>エンドユーザーも、値段を交渉して設定することはできず、提示されている価格を買わないと言うことで拒否することと買うことで受け入れるという2つの選択肢しかありません。

これは非再販商品しか売っていないスーパーで、値引交渉しないで黙って買っている客を想像できますね。ちょっと前の関西の電器屋の量販店では表示価格よりも店頭で値引交渉するのが「文化」でしたが、最近はその文化がポイント制という二次割引によって絶えてしまったようです(笑)。
それでもいまでも、町の商店街とか市場ではダイナミックに価格交渉はできますよね? 出版界で再販制がなくなった場合に、書店店頭で客が値引交渉したら、それはそれで面白い。書店外商での図書館納品には値引あるいは添本による実質的値引とかの入札があるようですが……。

>値段は、出版社の側もほぼ相場的な値段を付けることになり、必ずしもきめていないのではないか。誰も値段を決めていない……。というような感じかと…。

つまり「再販価格」であっても、ほぼ「市場均衡的な価格設定」になっているというわけですね。三月書房の宍戸さんが「新文化」紙上(1996.3.21)で、吉本隆明の自由価格本発売に際してのレポート(「非再販にすれば本当に安くなるのか」)を一面で書かれていますが、その中で「かりにある本がよく売れたとして、安かったからよく売れたと考えるか、高くなかったからよく売れたと考えるか、その程度のちがいでしかない。筆者が二十数年本を売ってきた経験から言えば、読み捨て本は例外として、よく売れる本の条件とは、内容がよくて、タイミングがよくて、定価が高すぎない本だと断言できる」と書かれています。
そして僕が思考実験している「非再販本の委託」について、宍戸さんは「(非再販本の)委託の場合だと、出版社の経費が再販の場合と同じだけかかるので、書店に値引き可能なマージンを出すためには、希望小売価格を高めに設定しなくてはならないはずである。今回の場合は、買切にしたから価格が下げられたのにもかかわず、非再販にしたから下がったのだと、短絡的に思い込み続ける人がきっといることと思う」と書かれている。
まったく僕も同意見です。このことが示しているのは、非再販本が「委託」で流通しても本は決して消費者にとっては安くはならないということです。また、「ハリーポッター」のような売れ筋の新刊に限らず、非再販本が「委託/買切」であっても版元が正味を引き下げない限りは、店頭での「希望小売価格」は割り引かれないでしょう(註)。(仮に低正味であっても「買切」による流通阻害(書店の仕入抑制によって本が店頭に並びにくくなる)のほうが、割引メリットよりも読者にとっての不利益は大きい。)
この時、本の内容や造本等から判断して「希望小売価格」が適正かどうかによって、その本の売れ行きは決まるのではないでしょうか? つまり「再販価格」だと、確かに書店間による「価格の競争」はないが、読者による値踏み(値頃感)という「価格の競争」はあるのではないでしょうか? もっと言えば安く割り引いても売れない本は売れないのです。松本さんが言われるような意味で、ほぼ「市場均衡的な価格設定」にすでになっているということでしょう。

それから「再販制撤廃派」が弊害として指摘していることがらとして、
①市場の公正な競争が阻害されている。金太郎飴書店ばかりで専門店が少ない。
②他業種からの参入障壁が高い。
③消費者が不利益を被っていること
を論点としていますが、
①については書店間競争と淘汰は日常的である。専門店に関しては、社会学系専門店・医学書専門店・児童書専門店・詩歌専門店・映画演劇専門店・音楽書専門店・アート専門店・建築専門店・漫画専門店・ミステリー専門店・エロ本専門店等がすでに実在しており、これらの専門店の多寡と地域的偏りはそのジャンルの読者人口によって規定されるのであって、「再販制」の有無とは関係ない。
②については、すでに薄利多売の量販店系や複合エンターティメント系等の他業種による書店チェーンが多く参入している。
③については、上記で説明したように「市場均衡的な価格設定」と読者の値踏みによる「価格競争」が実質的に行われている。
★註:過日、大手書店の店長に「非再販本でも通常正味の委託だった場合に、店頭で割引して売りますか」と質問したところ、即座に「それはありえない」という回答だった。因みに「ハリーポッター」は、「買切」書籍であったが「低正味」ではなかった。