「釜ヶ崎地区内での住民登録削除」問題


情勢は動いている、「国民投票法」問題を先端として情勢は緊迫している。
しかしこの春先の時期の黒猫房主の情況(「状況」ではなく「情況」のシニフィアンがフィットしているかなあ)は、停滞している。気分が乗らない、気力が萎えている、とまあ、軽い鬱的症候なのだ。これは、黒猫房主に起こるこの二三年の傾向で、夏前頃になると回復するようだ(大昔には、「五月病」というのがあったが、最近はそのような傾向が青年にはないようですな。もっとも黒猫房主は50歳台の中年だが……)。

というわけで、怒るべき・批判すべきが事柄の世の中には多すぎて、この「停滞猫」の元々小さな額ではすぐにショートしてしまって、批判の理路(回路)を辿る(繋ぐ)前に萎えてしまっている。だからせめて反対の意思表明はリアルでと、デモなり抗議集会があれば微力ながらも駆けつけようと思っている次第だが、それも適わないこともある。


さて予想通りというのも敗北主義的かもしれないが、大阪市西成区釜ヶ崎地区内での住民登録削除が、大阪市によって強行実施された。長居公園の代執行もそうであるが、ある意味では「合法的」暴挙であると思う(「合法的」と言い得るのは、ただ適用する法が存在しているに過ぎなく、その適用が上位法あるいは憲法に反する故に、実定法内の判断においても極めて明白に「暴挙」と言えるのだが)。
僕も及ばずながら抗議集会に参加したり反対署名を集めたりしたが、当局は29日に、2088人分の住民登録を職権で削除した。これは、端的に言って人権侵害であり、そのことにおいて違憲性は明白であるが、この実施の違憲性に関しては停滞猫よりも信頼性の高い、憲法学の専門家・笹沼弘志さんの見解をペーストしておこう。

大阪市は、本日夕方に解放会館等で住民登録している労働者たちの住民票職権消除を強行しようとしています。


 解放会館を住所とする届出及び住民登録事務を、法的にも実務的にも違法だとは言えないにもかかわらず、また、それを説得的に立証し得ないにもかかわらず、統一地方選挙告示前に消除をしようという大阪市の姿勢は、有権者を愚弄するものであると言わざるを得ません。
 大阪市による住民票職権消除の違憲性について簡単に指摘します。


1. 住民票は、選挙権だけの問題ではない。消除は選挙権はじめその他の憲法上の権利を侵害し、多大な不利益を及ぼす。


2. そのため、選挙無効のおそれのみを理由にした住民票職権消除は許されない。


3 なぜなら、.現在の登録のままでは選挙無効となる危険があるというのならば、選挙権以外の多くの権利・利益に関わる住民票の職権消除で対応するのではなく、選管の権限で選挙人名簿に投票できない旨の表示(公選法27条)をするというより制限的でない方法(権利侵害が少ない方法)があるからだ。


4. そもそも、現在の登録で選挙無効となるおそれはない。

 大阪高裁決定07年3月1日は、現状で選挙無効となる可能性を指摘しているが、登録者を一律に扱ってはならないと言っている。登録者には、解放会館に住んでいる人もいれば、市外に住んでいる人もいるだろう、市外に住んでいるのに解放会館で登録している人が多数いた場合には選挙無効となると言っているに過ぎない。
 実際には、差止決定された当事者と同様に、ほとんどの登録者が西成区の解放会館近隣、あるいは大阪市に住んでいるのだから、解放会館に住所があるといえる可能性もある。そうでないとしても、大阪市統一地方選挙で投票することが選挙無効の要因になるとは言えない。
 3月1日高裁決定を受けて、申立人の職権消除をしないのであれば、他の登録者についてもできないはずだ。


5. むしろ、職権消除した場合、公職選挙法違憲性が問われる。

 現行公職選挙法では、住所のない者のうち、在外国民のみ特別に選挙権行使を保護されている一方、日本国内に居住しながら職業上の理由または貧困のため住所を確保できない者が多数いる。解放会館の登録者がそうだ。これは憲法15条国民固有の権利としての選挙権、14条法の下の平等、44条違反財産による選挙人差別の禁止に違反する。

 在外国民以外の住所がない有権者の選挙権行使を可能とする法改正が行われるまで、職権消除は凍結すべき。


6. また、住基法の総合的解釈により、住民としての権利や選挙権行使を可能としうるのに、また約30年間してきたのに、突然、法律が変わったわけでもないのに、取扱い方針を変えて権利行使を不可能とするのは信義則上許されない。


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  笹沼 弘志(憲法学)
  静岡大学教育学部
  ebhsasa@ipc.shizuoka.ac.jp
  http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~ebhsasa/home.html
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なるほど、と膝を打った。
<現行公職選挙法では、住所のない者のうち、在外国民のみ特別に選挙権行使を保護されている>ことの整合性からして、<日本国内に居住しながら職業上の理由または貧困のため住所を確保できない者が多数いる。解放会館の登録者がそうだ。これは憲法15条国民固有の権利としての選挙権、14条法の下の平等、44条違反財産による選挙人差別の禁止に違反する>という指摘はキモであると思った。

そこに住んでいない「在外国民」に選挙権を認めているのであれば、法の下の平等において解放会館等に登録している西成の住民にも選挙権を認めなければならない。
逆に言えば、選挙無効になるから住民票を緊急に削除するという法理は成立しないわけだ。
「住民票」はその人を特定するための権利だろうから(黒猫房主は住民票の有無・国籍に関わらず、現にその人が<在る>ことにおいて「存在の肯定」は公理だと考えているが)、現状の住民票の制度は改善されるべきだと思っている。じゃあ、国民総背番号制導入がいいのかあという声が聞こえてきそうだが、これには断固反対。
「管理」するということと「保障」するということの関係、つまり「生-権力」の問題として捉えるならば「主権-自発的服従」という関係において、「生-権力」は<包摂>することにおいて誰を<排除>しているのか、そこが問題にされなくてはならない。この<排除>の基準は、国家や社会の操作による「リスク管理/品質管理」という選別に他ならない。


★下の本は未読なのだが、気になっている本だ。

排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異

排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異

  • 作者: ジョックヤング,Jock Young,青木秀男,伊藤泰郎,岸政彦,村澤真保呂
  • 出版社/メーカー: 洛北出版
  • 発売日: 2007/03
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