10/23「朝日新聞」の書評への恣意的感想

●『下流社会』(三浦展光文社新書)、書評者:吉田司
吉田は、コンパクトにこの本のキーワードである「下流」とその周辺を扱った類書を紹介しつつ、今回の選挙で自民党が大量の若者票を獲得した理由として、「新しい農民」像の登場を示唆している。この「新しい農民」と選挙の結果を結びつけたのは、たぶん吉田のオリジナルな批評だろう。僕などはそれを知りたくて読むかもしれないから、書評としては成功していると思う。この辺の手際のよさは吉田の得意とするところだろう。三浦展の前作『ファスト風土化する日本―郊外化とその病理』( 洋泉社)では、分析データの恣意性や客観性に問題あることが指摘されていたので、切り口は面白そうだが真に受けないほうがよさそうだ。
★吉田の紹介によれば「新しい農民」というのは、大都市郊外で育った団塊ジュニア世代の都市回帰は一部の話で、むしろ「郊外定住時代」が始まっており、親のそばに住み、孫が生まれ、人間関係も固定化するなら、この狭い空間は「昔ながらの村」となるので、そこに自足する若者は「新しい農民」ではないか、ということらしい。

●『神の子』(藤井貞和)(書肆山田)、評者:高橋源一郎
高橋は、僕の読んだ限りではいつもそうなのだが、本の内容をほとんど説明しない。今回の場合では、「詩」は「難しい」とか「わからない」という一般的な感想に寄り添いつつ、さらりとかつか鮮やかに詩の核心を説いて、読者の詩に対する警戒心を解いてみせる。うーむ。お見事ですなぁ。だからと言って、これで藤井の詩集が売れるかどうかは、別の問題。

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