浜野佐知監督特集

下記の浜野作品で私が観ているのは「百合祭」だけですが、ユーモアがあって期待通りの作品でした。ラストシーンの吉行和子と白川和子との展開は、とくによい。このラストシーンは原作にはない、監督からのメーセージであり、この映画が原作を超えてオルタナティヴ(多様な性愛の在り方)な世界観を描いている、と思いました。
今回の機会に全作品を観たいと思っています。

浜野佐知監督特集


 「相手が男なら、私も戦い甲斐があった。
  コンチクショー!負けるもんか」


三百本以上の作品を持つ、知る人ぞ知る女流映画監督・浜野佐知。女流作 家・尾崎翠の小説を題材とした『こほろぎ嬢』『第七官界彷徨〜』と、老 女の性愛を描いた『百合祭』を上映。彼女の独特の視点を堪能して欲しい。


◆7/24(土)〜30(金)1週間限定上映! 当日一般1500円/大学生以下・シニア・障がい者1000円(リピーター割引1000円)


◆連日1回目の上映終了後に多彩なゲストを迎えて浜野佐知監督とのトークショー実施! 詳しくは、京都シネマ上映スケジュールをご確認ください。 http://www.kyotocinema.jp/schedule/index.html


◆監督とのトークショーのゲスト
 7月24日(土):森澤夕子(尾崎翠研究者)・山崎邦紀(脚本家)
 7月25日(日):土井淑平(尾崎翠フォーラム)
 7月26日(月):ひびのまこと(関西クィア映画代表)
 7月27日(火);イダヒロユキ(大学非常勤講師・ジェンダー論)
 7月28日(水):太田耕一(関西ピンクリンク代表)
 7月29日(木):栗原奈名子(映画監督)
 7月30日(金):寺田操(詩人)・山崎邦紀(脚本家)


◆『第七官界彷徨 -尾崎翠を探して』新編集版
 2010/100分/旦々舎/監督:浜野佐知/出演:白石加代子吉行和子


尾崎翠は、今から60余年前の昭和初年代に「第七官界彷徨」や「こほろぎ嬢」「歩行」などの傑作を発表しながら、人生の半ばにして、日本文学史からふっつりと姿を消した幻の作家だった。林芙美子のような親しい友人にも「気が狂って死んだ」と思われていた尾崎翠が復活するのは、1969年のこと。新機軸の文学全集に「第七官界彷徨」が収録され、その時代を越えた風変わりな作風が、新鮮な衝撃を与えた。
そして、作者が故郷の鳥取で、老後の日々を送っていることが確認される。35歳の時に、頭痛薬の中毒で鳥取に戻って以来、37年目の復活だったが、2年後、74歳で亡くなる。生涯、結婚することはなかった。
映画ではその尾崎翠の代表作「第七官界彷徨」と翠の実人生をクロスさせながら描いていく……。


◆『百合祭』
 2001/100分/旦々舎/監督:浜野佐知/出演:吉行和子ミッキーカーチス、 正司歌江、白川和子、大方斐紗子


73歳の宮野理恵さんをはじめ、老嬢ばかりが住むレトロな洋館の毬子アパートに、ダンディで陽気な75歳の三好さんが引っ越してきた。三好さんは、老嬢たちのサンクチュアリのプリンス、光源氏として、一時期君臨する。宮野さんもまた、すっかり忘れていた体の奥の甘美な感覚を取り戻し、三好さんとセクシュアルな接触を持った。若い頃のセックスとは様相が異なるが、体を重ねた時の柔らかな感触に陶然となる。
しかし、次第に三好さんの意外な過去と実像が明かになってくる。彼女たちは驚き、怒るが、いつまでも恨み言は言わない。三好さんに触発されるなかで、社会が押しつけ、自分たちも受け入れてきた「お婆さん」の役割やイメージを振り払い、自らの内の眠れる欲望に向かい合ったのだ。そして、いささかの躊躇もなく、果敢に<生き直し>を開始する。


◆『こほろぎ嬢』
 2006/95分/旦々舎/監督:浜野佐知/出演:石井あす香、鳥居しのぶ、吉行和子、宝井誠明、片桐夕子


尾崎翠の最後の短編三本「歩行」「こほろぎ嬢」「地下室アントンの一夜」を、連作として映画化したもの。登場するのは、どこか現実離れした風変わりな人物たちだが、みんな孤独で、みんな恋をしている。
どれも決して実ることのない、夢か幻のような恋ばかりだが、それも当然、彼らは対(カップル)になることを望んでいないのだ。本作のキーワードとなるのは「分裂心理学」。尾崎翠の「独断的命名によるナンセンス心理学」だが、人間や動物までも分裂した存在として、ユーモラスに捉える。登場人物の一人が、全国を旅しながら、分裂心理の調査をしているが、人間や生き物を、滑稽な存在として肯定するのが分裂心理学だ。「地下室アントン」は、孤独で分裂した地上の人間たちの逃げ込む、安息の場所だが、現代の「地下室アントン」は今いずこに?